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高知大学

教授 津田 正史
Email:mtsuda@kochi-u.ac.jp
tel:088-864-6720
fax:088-864-6713

 私は2007年1月に北海道大学・大学院薬学研究院(天然物化学研究室)より赴任しました。 北海道大学では、生薬植物、海洋生物、微生物から生物活性を示す小分子有機化合物の探索と構造解析という天然物化学研究を、4回生より19年間一貫して行い、これまでに500を越える新規化合物を発見し、それらの精密化学構造を明らかにしてきました。 それらの中には、医薬品のシード(種)や生命現象の解明に役立つ試薬として注目されている分子が数多く含まれています。 現時点では、研究室のセットアップの途中であり、研究の開始にいたっていませんが、本稿では、北海道大学でのこれまでの研究経緯や、これから高知大学で推進してみたいと考えている研究を紹介したいと思います。



 渦鞭毛藻という生物は、例えば瀬戸内海では大量発生して赤潮や、北海道ではホタテ貝、カキ貝などの貝毒といった、漁業に甚大な被害を引き起こす原因生物として厄介者扱いされています。 私が扱ってきた渦鞭毛藻は、海水を顕微鏡でのぞくともっとも高頻度で見つけることができますが、赤潮や貝毒とは無縁な種類で、大きさは20マイクロメートル程度です。 また、海産無脊椎動物の体内に共生することが知られており、扁形動物ヒラムシや二枚貝から分離することもできます。 北海道大学においては、共生型の渦鞭毛藻を実験室内で大量培養し、その藻体の有機溶媒抽出物より一連の抗腫瘍性物質(アンフィジノリドと命名)を単離し、それらの化学構造を解明してきました。 アンフィジノリド類は、これまで医薬探索の生物資源としてよく用いられてきた土壌放線菌や真菌類の産生する有機分子とは全く異なるユニークな化学構造をもち、数ナノグラムときわめて微量でがん細胞の増殖を抑制し、マウスを用いた動物実験においても顕著な抗腫瘍作用を示します。興味深い医薬リード化合物として注目されているにもかかわらず、渦鞭毛藻は増殖速度が遅く、有用化合物の生産量も微量であったことから、活性発現機構の解明や詳細な動物実験もなされていない現状でした。
 そこで、これら有用化学素材を大量生産する渦鞭毛藻株の樹立と、高密度培養条件の確立を目的として、産学官共同研究を実施してきました。有用化学素材生産株を遺伝子情報により選別する方法、ならびに多成分解析という新しい二つの方法論を組み合わせることで、有用化学素材の大量生産株の取得が可能となりました。一方、閉鎖系生命維持システムにより培養環境条件の詳細な検討を実施することで、飛躍的な増殖条件を見出すとともに、さらに画像センシング技術を活用した微細藻計数法を構築することができました。現在、これら新たに見出した技術を装置化し、これまでに発見した有用化学素材生産株を高密度培養することで、医薬品開発に向けたサンプル量の確保を実施しようと準備中です。 化合物の大量供給が可能となると、渦鞭毛藻をはじめ微細藻類からは有用な化学素材が数多く見出されており、これらも医薬品素材として取り上げられる可能性が極めて高くなるものと期待されます。



 日本には、緑藻237種、褐藻307種、紅藻869種の計1,413種の海藻類が生育していることが知られています。 最近は、機能性食品・化粧品・医化学用基剤・肥料・飼料など多岐にわたって利用されています。 また、医薬品としての利用につながるような海藻類のMRSAに対する抗菌性や、抗腫瘍活性も報告されている私たちは、未利用藻類の有効利用法を検討したところ、これら海藻類の抽出物には、数種の病原性ウイルスに対して抗ウイルス作用を示すことを見出しました。 特に、褐藻類と紅藻類には、癌化ウイルスであるEpstein-Barrウイルスや、AIDSの日和見感染症であるカポジ肉腫ウイルス、さらにインフルエンザウイルスに対して抗ウイルス活性が認められ、現在、これらの活性成分の化学構造の解明を目指して研究を行っております。



 これまでに、海洋由来の真菌より多くの新規化合物を単離し、それらの化学構造を明らかにしてきました。 高知大学では、黒潮海域の海洋微生物を生物材料として、新たな有用化学物質の探索を行う予定であります。

 当研究室は、高知大学物部キャンパスの海洋コア総合研究センターを中心に、岡豊キャンパス総合研究センター、朝倉キャンパス地域連携センターに研究拠点を置き、分子生物学、化学、薬学、生物工学の研究を進めていくことにしています。 上記の海洋天然物の研究にかかわらず、地域に密着した未利用素材・産業廃棄物からの有用化学素材の探索といった研究は進めてみたいと考えておりますので、気軽にお声掛けいただければと考えております。

プラットフォーム 2007年4月号 No.235