情報プラットフォーム 2010年5月号 No.272

ぷらっとウォーク

牡丹、紅葉、桜、柏

この四つの植物に共通するものは何? これは動物の肉の名前であり、イノシシ、シカ、ウマ、トリの肉の美しい呼び名である。我々が現在、普通に食べる牛と豚の肉には、このような綺麗な和名はなく、牛肉と呼び、豚肉と呼ぶしかないのである。一般的に牛や豚を食用にする習慣が日本にはなかったことが要因と思われる。欧米ではどうだろうか。 かって、欧米人の多くは日本の商業捕鯨を「日本人は野蛮だ。鯨を食べるとは」と非難した。シー・シェパードが執拗に日本の調査捕鯨に反対している。日本人の反論は「自分たちが牛や豚を食べていることを棚に上げて」である。しかし、この論理は欧米人には理解できないことだったのである。彼らは牛肉(牛の肉)、豚肉(豚の肉)、そして羊肉(羊の肉)は食べていないからである。実は、彼らが食べているのはビーフ(beef)であり、ポーク(pork)であり、マトン(matton)なのである。英語では、動物の生きている姿の呼び名と、それから得た肉の呼び名とは全く別もののことが多い。日本語にはポークやビーフに対応する単一の単語はない。ポークは「ピッグ・ミート」ではない。狩猟の食文化と農漁業の食文化との相違である。欧米の言語には、肉の部位だけではなく、雌・雄にも、成獣・幼獣にも、それぞれ固有の呼び名がある。一方で、日本語の世界では、魚の部位に詳しい呼び名がある。さらに出世魚では、成長段階の各齢に応じて呼び名は変化する。まさに歴史・文化の違いであり、それぞれの置かれた気候・風土やそこでの生活・風習の違いである。

狩猟により捕獲した野生の鳥獣を食材とする料理をジビエと呼ぶ。ドイツのレストランで、ウサギの料理を注文した。口に入れたとき、歯に当たるものがあり、「アッ」と声を出した。散弾の一発である。仲間のドイツ人は「この店は本当に素晴らしい。ソバージュ(野生のもの)を提供している証拠だよ」と間髪を入れずに言ってくれた。

最上の美味しい部位は、シェフの腕を振るったシカのジビエ料理として、高知の名物にしたい。保存用には、冷凍肉、塩漬け肉(コーンド・ミート)、干し肉(ジャーキー)、燻製肉(スモーク・ジャーキー)などと目的に応じての仕分けが必要である。ソーセージやハムに適した部位もあるだろう。これからの研究課題である。脂肪分の少ないシカ肉は、部位によっては高齢犬のペットフードに活用できる。シカの骨のスープは「鹿太郎ラーメン」として高知のご当地ラーメンはどうだろう。いずれにしても、シカの食害から森を守ることと、シカを資源として見守ることを両立させる仕組づくりが大切である。

ディズニーの「バンビ」や「仔鹿物語」のフラッグのような仔鹿の可愛らしさが、シカを食材とするときの抵抗になる。欧米でも、人間の生活に密着し、友人として信頼関係を築いてきた馬や犬は別格である。食材とするには抵抗があるようで、それらの肉の固有の呼び名は英語には見あたらない。なお、鹿の肉はベニゾン(venison)である。

狩猟で捕獲した野生鳥獣は、飼育動物と異なって、抗生物質などを添加した飼料を食べていない。この自然のままを売りにしなければならない。「生きている姿」の「肉」ではなく、美しい呼び名、「ぼたん」や「もみじ」として味わいたいものである。

中国語では「羊頭狗肉」や「牛首馬肉」の諺から、犬肉や馬肉の表現が普通に使われていると想像できる。また、豚肉を忌避し、ハラール認証を必要とするイスラム圏の言語では、豚の肉を指し示すための固有の呼び名があるのだろうか。知りたいものである。

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