情報プラットフォーム 2010年7月号 No.274

特集 高知の夏 定番商品

高知屋 熱い男のこだわりが生み出す土佐の絶品涼味「ところてん」

高知市より車で約1時間。太平洋に面した高知県中西部に位置する中土佐町久礼。かつおの町としても有名なこの町に、大正時代から脈々と受け継がれてきた夏の涼味「ところてん」の老舗、高知屋がある。

代表の本井康介氏に話を伺った。

◆受け継がれる伝統

高知屋は、大正10年に本井氏の祖父母がところてんを製造しリヤカーで売り歩いたのをきっかけとして創業し、間もなく90周年を迎える老舗である。その3代目として、伝統を受け継ぐ本井氏にとって、幼い頃のところてん作りに対する印象は、「宿題よりもしんどいこと」だった。

ところてん作りは、赤紫色の天草を、水にさらしてよく洗い、天日で乾燥させる作業を、退色して白くなるまで何度も繰り返すところから始まる。小学生の頃にはお手伝いとして、炎天下の中、リヤカーで作業場と干場である海辺を行ったり来たりしていたという。そうして下拵えが整った天草を大釜でどろどろに煮込み、濾したものを冷やし固めるのだが、ほとんどが昔ながらの手作業。夏場の最盛期には早い時で朝2時頃から仕込みを始め、夕方まで包装や発送などの作業に追われるなど重労働かつ多忙を極めるため、今でも大変だという思いに変わりはない。

◆食感へのこだわり

高知屋のところてんは、100%天然の天草(赤藻類テングサ科の海藻)を使用している。先々代の頃には、近くの海で採れた天草も使用していたそうだが、先代になって瀬戸内の淡路産を仕入れて製造、3代目の本井氏は、それをさらに進化させ、淡路産と室戸産をブレンドした天草を原材料としているという。寒天は一切使っていない。穏やかな瀬戸内海で育まれた淡路産天草が持つ独特の「ねばり」と、黒潮に鍛えられた室戸産天草の「コシの強さ」が、高知屋自慢のシャキッとした歯ごたえとツルっとしたのど越しを生み出しているのだ。

突き棒(竹鉄砲の要領でところてんを押し出す道具)にもこだわりがある。一般的にはその出口の網の部分はステンレス製がほとんどだが、高知屋のオリジナル突き棒はテグス(釣り糸)を使用して本井氏自らが自作している。本井氏によると、ステンレスで仕切られたものは、断面が滑らかになりすぎて、高知屋自慢の近海産のじゃこや鰹節等を利用した「だし」がからみにくく、天然の天草による素材感や、だしの風味を生かしきることができないという。確かに、テグスを使用したオリジナル突き棒から押し出されてきたところてんは、断面がギザギザで、光が乱反射しているのがよくわかる。だしを付けて口に含めば、しっかりとかつおの風味をまとったところてんの絶妙な歯ごたえと天草の繊維感を舌に感じることができる。

原材料にこだわるのも、突き棒にこだわるのも、全ては、口に入れたときの食感へのこだわりだ。

◆外商への手応え

本井氏の食感へのこだわりには理由がある。

当初から「地産地消」を意識し、原材料の天草も県内産を取り入れるなどの取り組みを進めてきたが、ところてんという限定された商品で展開するには、「地消」だけにこだわるには限界を感じていた。

活路を求めていたところ、観光客や試食したバイヤー達の間で、ところてんをだしで食べるという地域性への物珍しさだけでなく、その食感とのどごしの爽やかさが評判を呼んでいることに着目。高知屋のところてんが持つ、他にはない「食感」と「伝統に裏打ちされた地元産の確かな品質」という武器をもってすれば大都市圏でも十分勝負できるのではないかとサンプルを持って単身東京へ乗り込んだ。

あるときは大企業の社長室に通され、何を話したか覚えていないほど緊張しながらもPRさせてもらい、トントン拍子に販路が開拓できたこともある。

とある小売業社に卸したところ、賞味期限の近づいた商品を十把一絡げで投げ売りされ悔しい思いをしたこともある。そんな経験をふまえ、ターゲットを絞り、妥協しない売り込みを続けた結果、現在では有名百貨店や高級食材を扱うスーパー、さらにはホテルや東京23区を中心に展開する飲食店などからも引き合いが来るようになった。

やればやるほど、反応が返ってくるため、面白いと感じると同時に、夏の最盛期の作業を思うと、ちょっと先が思いやられるそうだ。

◆地元久礼、そして高知への思い

本井氏は、「外商」に手応えを感じる一方で、祖父母の代から愛され、今日に至るまで高知屋を育ててくれた地元久礼に対する熱い思いがある。

中土佐町議員としての立場から地元の発展を支援するとともに、地元久礼の大正町市場や周辺商店街の活性化を目的として若手有志とともに「ど久礼もん」を立ち上げ地域振興を実践するなど、八面六臂の活躍を見せている。また、今年は龍馬伝という千載一遇のチャンスが訪れており、これをきっかけに高知に来た観光客を地元久礼に引き寄せたいと語る。

さらに、ところてんを久礼の名産品から高知の名産品に引き上げたいとの思いから、「地消」の新たな展開も模索中だ。

高知市内某ホテルの料理長のアイデアを基に、観光客が気軽にところてんを押し出して楽しむことができる、小ぶりの竹筒を模した突き棒を開発、某ホテル限定でしか提供していないが、好評を博しているとか。

他にもかつおと合わせた新しい食べ方を研究するなど、「高知観光」における「ところてん」の認知度向上に熱意を注いでいる。

まっすぐな視線で食感へのこだわりとところてんによる地域振興への思いを語る本井氏。気骨溢れる熱い男だ。

ギラギラと照りつける太陽の下で、陽光を受けてキラキラと輝く絶品のところてん。

眼前に広がる久礼の青い海を眺めながら、キンと冷やした鰹の香るほんのり甘いだしに生姜をピリッと利かせてチュルっとすすると、もう病みつきである。

歴史ある久礼八幡宮に見守られながら代々受け継がれてきた老舗高知屋のところてんで、この夏最高の贅沢はいかがですか。

■高知屋
〒789-1301
高知県高岡郡中土佐町久礼6780-1
TEL 0889-52-3399
FAX 0889-52-3299
URL http://www.kochiya.com